踊り続けると言う事

日本に居る時、私は音楽大学出身と言う肩書を有利に使って来た。ピアノ講師をしていた時、または音楽関係の人に会う際「音大出身です」と言うと私の演奏を聞いていなくても「ああ、音大出身なんですね。」とポジティブな感じで言われた。なら安心だ、と言わんばかりに私のそこにいる意義を納得してもらえた。大袈裟な言い方かもしれないけど。音大の友人と話した時「あの人音大出身じゃないもんね」とアマチュアのミュージシャンの事を少々馬鹿にする様に言ったりしていたのも聞いた。音楽をやってる時は、その肩書に助けられ、甘んじて来た。

でも、初めてここに来て「あなたは音大出身じゃないもんね」と言われた音大を出てない音楽家達の気持ちが分かった。

「私は飲食系で云年働いて、これこれこんな経験をしたのだ。」とか「私はいろんな飲食の仕事の経験があるから、云々」言われる立場になった。お店の手伝いに来る人達に。始めは、そうなんだね。そうか、凄いね。とか言ってた。

アホか。媚を売ってどうするのさ。私が一度「そうなんだ。凄いね。」何て優しい言葉をかけてしまうと相手は気持ちよくなるらしい。「私はこんなに頑張った。」とかこんな大きなお店で働いて大変だった。あなたは想像できないでしょ。とか言う様になる。

初めは気にしない様にしてた。でも、何回も言われると、だからなんなのだと思う様になる。だから何なのだ。自慢は結構。と言いたいのだけれど、相手の言ってる事も正しいから言い返せずに、ただ拳を握りしめる事しか出来ない。私は日本で飲食店で働いた経験はない。そして私達のホイリゲは村で一番小さく、そして一番新しい。だから彼女達は思うんだろうけど、「経験のある私が（私たちが）教えてあげますよ。」と。家のホイリゲは他のホイリゲと違った良い面もあるんだけど、どうも比較される事が多い。お客さんからもだ。

私がもう少し年取っていて、これまでの人生を飲食系の仕事で貫いて来た人だったら、ばかにされないのかもしれない。でも、今までの人生がなかったら私はここに居なかったんですよ。音楽をやって、それをやめて、そしてドイツで職業訓練生になって、そして今私はオーストリアにいる。遠回りな人生だけど、どの経験も無駄になってないと思う。でもそんな事を一人ひとりに説明したって無駄だし、聞いてもくれないだろう。どんなに夢中で頑張ってるとか他の人にとってはどうでも良い事で、結果とか見た目で判断されるんだろう。

悔しい。

ドイツで語学学校に通っていた時に出来た友人に言われた事を思い出した。「止まっちゃダメよ。プッシュし続けなくちゃ」と。彼女と私は同時期に仕事を探していたのだけれど、私よりちょっと先に就職先が決まって、まだ決まらない私を励ましてくれた時にかけてくれた言葉だ。その時と今では状況とか悩んでる事はだいぶ変わってしまったのだけれど、未だ良くにこの言葉に励まされる。もう先に進めない様な気になったりもするのだけどプッシュし続けるのだ。村上春樹の小説風に言うと踊り続けなくてはいけないんだ。

もうダメ。私なんかに出来ない。と、弱気になってストップしてしまったらそこでおしまいなんだ。どんなステップでも、踊り続けないと。

↑9年前、ベルリンに住んでいた時に良く行ったマウアーパークで撮った写真。