Manablick

オーストリアのビオワイン農家に嫁いだ元ピアノ講師、高田マナのブログ

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暑い八月の日に今ある平和に思いを寄せて

      2018/08/07

ここ一ヶ月は自分の結婚式、そしてホイリゲと大変忙しく過ごしていました。日本は例年に無い猛暑の様ですが、こちらオーストリアも今年は暑いです。こんな暑い日に、仕事の事でも将来の事でもない事を書きたくなりました。

今日は広島の原爆記念日なので戦争や平和といった事についてあれこれと考えていました。今年で原爆投下から73年です。73年とは長い年月ではありますが、80歳過ぎの人達が子どもだった頃だと思うと、あまり遠い過去の様な気がしません。日本は二回も原爆を落とされて、その経験から「平和」を大事にする国へと変わったと信じていましたし、未だに信じてる人も多いかと思いますが、最近私は首をひねりたくなります。憲法改正の動きが出て来たり、世の中が静かに、しかし確実に右寄りになっている気がするのです。まるで気味の悪い夜行性物が寝ている間に静かに静かに自分の側に近寄って来てる様な、気味の悪さを感じます。

政治に関心を持つということは難しいことだろうか

私はヨーロッパに住んでもうすぐ4年が経ちます。ドイツに3年以上、そして今年の始めからオーストリアに住んでいます。日本と海外を比べて何処とかが良いだの、悪いだのと言うのは様々な海外在住の方がしているので私はしませんが、どうしても言いたい事があります。それは控えめに言っても、全体的にこちら(ドイツやオーストリア)の人の方が政治に関心を持っていると思うのです。ドイツで働いていた時、同僚にドイツの政治についてどう思っているのかと聞いた所、熱く、長く語ってくれたのを良く覚えています。日本に住んでいた時は家族以外の人とは政治の話をした記憶があまりありません。それは私の問題だったのかもしれません。何となく右よりの考えの人が気配がここ数年して、無意識にそのような話題を避けてしまったのかもしれない。

一つ印象的な思い出があります。大学を卒業して2年目の頃、日本で選挙が行われました。選挙の日に会った友人に「今日は選挙に行って来たんだ。」と何気なく話した所、「え、選挙行くんだ。偉いね〜。」と言われたのです。その友人は優しくて、大好きな友人だったのですが、正直この発言には驚いてしまいました。何故選挙に行くのが偉いのであろうか。自分の国を動かす人を決めるという事は非常に大事ではなかろうか。

事なかれ主義、刹那主義

日本で生まれ育った私にはこの「事なかれ主義」というのは染み付いています。事なかれ主義というのは面倒な事や嫌な事に目を背けて、本当は問題が山積みなのに、何もない事にして気楽に暮らす、と言う様な事と解釈していますが、これは非常に無責任な事であるかとも思います。

この事なかれ主義、刹那主義というのを感じるようになったのは、東日本大震災の後でした。震災の後、私は放射能の事が凄く心配になりました。家族とはその様な事を頻繁に話しましたが、友人とは出来ませんでした。震災直後、食べ物の産地が過剰に気になりましたが、何故かそれを周りの人には言えなかったのです。「気にし過ぎだよ。」とどうせ言われる事が目に見えていたからか、震災や原発、放射能の事を語れない ’’空気’’がありました。少なくても私はそう感じました。

あれだけの原発事故があったのだから、反原発の意見がどんどん出て来るだとうと思っていました。でもその当時の知人の中には「原発反対って言っている人、原発がなかったら電化製品全部使えなくなるよ?ちゃんと考えたら?」と言う発言をした人もいました。(当時まだ使っていたmixiで知人が書いたのを今でも覚えています)。

もっと家族以外の人とも、放射能の事や政治の事や原発の事を話したかったけれど、そう出来ない自分がいたのです。世の中は震災の事にあまり触れなくなり、恋愛や芸能人のニュースで溢れ、一見平和な日本が戻って来た、そんな気配さえ感じられました。

刹那主義という言葉が頭から離れなくなったのは、面倒な政治や語り始めたら本当に恐い放射能の事なんか目にくれず、恋だのファッションなどに浮かれる人を見てそう思いました。恋が悪い訳ではない。でもそれより大事な、面倒だけれどもっと真剣に考えなくては問題が日本には、勿論日本だけじゃないけれど、あるんじゃないだろうか。ドイツに来る前にずっとその様な疑問が頭から離れなかったし、今でもそうです。

日本に一時帰国して、時間があれば様々な友人に会いますが、彼らと政治的な話はしません。彼らの事が好きだから会うのですが、色々な考え方を話し始めたらきっとぶつかるであろう、という事が目に見えているからです。私も「事なかれ主義」を上手く使ってしまっている人間の一人なのです。

村上春樹のエッセイを呼んで衝撃を受けた

上記に書いた様なことで長年モヤモヤとしていました。去年たまたま呼んだ村上春樹の「近況、辺境」を読んだ時、衝撃が走りました。私が長年モヤモヤしていた事が上手く文章化されている!私が思っていたのはこれだ!と。村上氏がモンゴルのノモンハンに取材に行って、ノモンハンの戦いを通して戦争というものを語っています。

〜彼らは(ノモンハンで命を絶った日本兵達)日本という密閉された組織の中で名も無き消耗品として、極めて効率悪く殺されていったのだ。(省略)

戦争の終わった後で、日本人は戦争というものを憎み、平和を(もっとも正確に言えば平和である事を)愛する様になった。我々は日本という国家を結局は破局に導いたその効率の悪さを、前近代的なものとして打破しようと努めて来た。自分の内なるものとしての非効率性の責任を追及するのではなく、それを外部から力ずくで押し付けられたものとして扱い、外科手術でもするみたいに単純に物理的に排除した。(省略)

僕らは日本という平和な「民主国家」の中で、人間としての基本的な権利を保証されて生きているのだと信じている。でもそうなのだろうか?

表面を一皮剥けば、そこにはやはり以前と同じ様な密閉された国家組織なり理念なりが脈々と息づいているのではあるまいか。僕がノモンハン戦争に関する多くの書籍を読みながらずっと感じ続けていたのは、そのような恐怖であったかもしれない。この55年前の小さな戦争(ノモンハンの戦いの事、55年前とはこの本が書かれた当時から数えられている)から、我々はそれ程遠ざかってはいないんじゃないか。僕らの抱えているある種のきつい密閉性はまたいつかその過剰な圧力を、どこかに向けて激しい勢いで吹き出すのではあるまいか、と。

この本が書かれたのは20年程前なのですが、村上氏が書いている「いつかその過剰な圧力を吹き出す時」と言うのが、より近くなっている気がしてならないのです。もちろん気にし過ぎならそれに越した事はないのですが。

人間は歴史を学ばないと、どうしても愚かな事を繰り返してします生き物だと思います。歴史を学んでも愚かな事を繰り返している。

最近聞いた話ですが、近頃は平和学習も子どもが怖がるからあまりしないとか..。はだしのゲンを子どもが怖がるから学校に置かないという話も以前聞きました。私は子どもの頃学校で良くはだしのゲンを読みました。学校にある唯一のマンガだったから、という理由だったと思うのですが..。はっきり言って、やはり怖かった。未だに思い出して、ぞっとする事もある。でも戦争って怖いものだと思うのです。あのマンガを読んで、戦争って酷くて怖くて愚かなものだと知る事が出来ました。戦争が終わって70年以上が経ち、戦争を経験した人達が高齢になっている。子ども達に戦争の悲惨さを伝えるのが今後もっと難しくなるのかもしれません。

無関心と思考停止ほど怖いものは無い

そんな事言っても、今の所徴兵制もないし、戦争が起きる気配も無いのかもしれない。でも本当にそうだろうか?政治って面倒臭そうだし、面倒な事を周りの人と話すより、ファッションや恋愛の話をした方が楽しいかもしれない。でもそんな話が出来るのも今が平和だからじゃないだろうか。私は戦争が70年以上前の遠いお話であるとは思えない。今でも中東では戦争が続いているじゃないか。その戦争から逃れて来た難民の問題でヨーロッパは荒れに荒れているではないか。

テレビやメディアに踊らされ、今ある平和をぼーっと見ていたら、気付いた時には足下をすくわれて血なまぐさい、人間らしくない世の中に変わってしまうかもしれない。そう思うのは私だけだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 - ヨーロッパ, 人生観, 平和, 日本, 海外生活

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