音楽と私との新しい関係
小さな図書室には会議室の様に机と椅子が並べられてあり、壁一面にぐるりと部屋いっぱいに本棚がある。部屋の一番奥に不釣り合いだけど、何となくそこにあって当然という様な雰囲気を漂わせながら YAMAHAの電子ピアノが置いてある。
私はそのピアノの椅子に座りながら同級生や先生達が部屋に入って来るのを見ていた。担任の先生や一年生の時から同じクラスの数人のクラスメイトが私の側に座り、黙ってその時を待っている私の方を見て微笑みかける。担任の先生以外にも技術の先生が二人居るのは分かっていた。今日は校長先生は居ないけど、まあ仕方ない。さて、そろそろみんな部屋に入ったかな、と思った所にもう一人、私の大好きなドイツ語のゾッハー先生が慌てて入って来た。あれ?先生授業あるんじゃないのかな。と思いつつ、まるで仕事で来れないと思っていたお父さんが急に来てくたかの様な感じだった。嬉しい、ゾッハー先生に聴いてもらえる。でも敢えて先生の方は見ないでおいた。なんだか気恥ずかしかったからかもしれない。
担任の先生がにこにこしながら「さあ、じゃあどうぞ弾いてちょうだい。」と言ったので、頷いて弾き始める事にした。始めは特に曲の紹介も何もせずに。ドビュッシーの月の光から弾こうか、ベートヴェンの悲愴の二楽章から弾き始めようか直前まで迷っていたけど、月の光から弾く事にした。
弾き終わってから曲の説明をすると、授業中には私をいつも助けてくれるクラスメイトの女の子がとても優しそうで、とっても素敵に微笑みながら熱心に私の曲の説明を聞いてくれていた。担任の先生も忘れられない様な笑顔を見せてれた。ああ、よかった。きっと出したい、と思った音が出せたに違いないと思った。勿論聞いてたみんなが何を思ったかは分からない。でも自分では満足行く演奏が出来た。
続いてベートヴェンを弾き、そして最後に小さなクリスマスソングを弾いて私の小さなクリスマスコンサートは終わった。
「良かったわよ!」と、何人かのクラスメイトが私の肩をさすりながら言ってくれた。担任の先生も「良かったわよ!どう、弾くのを楽しめた?」と言ってくれた。
クラスメートにとっては、ただの小さなクリスマスコンサートに過ぎなかったかもしれないけど、私にとっては忘れられないものとなった。私は音楽から遠ざかる道を二年半前に決め、その時は「何でピアノなんかやっていたんだろう。結局私には向いていなかったものを、長々とやっていたなんて…。」と後悔ばかりしていた。でもここ最近「ピアノを弾きたくて仕方ない」という気持ちがどこかから湧いて来たのだ。最初は気のせいかな、と思っていた。でも次第にそれは明らかに自分が欲しているものだと言う事が分かった。こんな欲求、一体自分の何処にあったんだろう。はっきり分かるのは、全く違う仕事をしてみて気付いたのだ。いくら離れても、音楽を欲している自分がいる事を。
その事に気付けたきっかけになったのがこのコンサートだった。偶然私の通っている職業訓練学校に電子ピアノがある事を今年の始めに知り、定期的に学校でピアノを弾き始めた。そんな私の姿を見て担任の先生が「学校にいる時はいつでも使って良いわよ。だから今度みんなに聞かせてね。」と言ったのだ。初めてみんの前で弾いたのが今年の7月の終わり。その時は今回よりカチカチに緊張してた。人前で弾く何て非常にひさしりだったのだ。でも今回はもっと自分が「弾きたい」と思う様に弾けたし、なにより楽しかった。
これからまたピアノをまた弾き続けていこうと思う。どういう風にピアノを生活の中に生かすか、つまり本当に趣味としてか、それかそのうち又仕事としてするは分からないけれど。でも周りの人、家族とか友人とかには少なくても聴いてもらいたいと思う。どうやらピアノを弾かない別けにはいかなそうだ。弾きたくて、練習したくて仕方ない自分がいるのだもの。
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Comment
はじめまして。たまたまここのブログに出会い影ながら読ませて頂いております。普段はコメントなんてしない自分ですが、今回の記事を読んで恐れ多いですが共感しました。私もピアノとは離れた生活をしていたのですが、切っても切れない縁があるんですね。私はまだ鍵盤に触れられないけど、高田さんと音楽との新しい生活を応援しています。
まな先生、松野楓の母です。
久しぶりに先生のフェイスブック拝見させていただきました。
日本に居た時とは、全く違った生活の中での音楽との関わり方の一コマに感動しました。
楓は、先生から沢山の刺激を頂き、今でもピアノが大好きで先生が日本に来た時にビックリするくらい上達していたいんだ!!と言って、勉強の息抜きやストレス解消の為など、日々色々な場面でピアノを楽しそうに奏でるまでに成長しました。
先生も、新たな生活の中で豊かな音楽と共に幸せな日々を過ごして下さい。
ご結婚の報告、嬉しく拝見しました。
近い将来、家族で先生の所に遊びに行きたいね!と話しています。